002・電子カルテ クラウド・オンプレ比較
電子カルテを検討するとき「クラウド」というパワーワードが良く出ます。
一般的なクラウドは価格が安い、反面、情報セキュリティの面で脆弱、通信速度が遅いなどのイメージが強いと思います。最近では日常生活にもクラウドが浸透していますが、遅いと感じたり、セキュリティが甘いと感じたり、実際に問題になるようなシーンを感じる事はありますか?
クリニックではセンシティブな情報も多く、取り扱いには厳密にガイドラインが定められています。一般企業、日常生活よりも厳密に取り扱いされている中、電子カルテだけネガティブなイメージを引き合いに出すことは滑稽です。クラウド型と従来型(オンプレミス型)の、明確な違いについてご紹介します。

目次
1.クラウド型
クラウド型
インターネット上で必要に応じてサービスを利用できる仕組みを「クラウド」と呼びます。この仕組みを用いて提供されるサービスは「クラウドサービス」、クラウド上にアプリケーション、データを保存して運用することを「クラウド化」といいます。
クラウドサービスの利用状況 64.7%
総務省の『令和2年 情報通信白書』によると、2019年にクラウドサービスを利用している企業の割合は64.7%と、前年比で6.0%上昇しています。
参考)クラウドサービスの例
- GoogleDrive,iCloud Drive
- One Drive,Dropbox
- Office365,Gmail…
クラウドの強み
- 初期費用が抑えられる
- サーバーの設置・管理コストが不要
- 設定作業、操作指導も原則オンライン
- 構内ネットワークの構築・管理がコストが不要
- 月額固定とするシステムが多い
- クラウド・アプリの使用料のみ
- ハードの維持費は端末台数分は必要
- 更新(5年毎など)を不要とするシステムが多い
- 端末ハードは速度・保守終了時など適宜買替えが必要
- OSサポート終了時、保守終了時必須
- ソフトと一式で契約しているリースは不可(リース会社所有)
- BCPの対策として安心(院外のデータ保存・管理)
- 診療報酬改定、バージョンの作業が不要(クラウド上自動更新)
- ロケーション・デバイスに縛られない運用が可能
- ハード障害時の復旧が早い(スペックを満たす代替PCは必要)
- 他システムとの連携(API)がしやすい
クラウドの弱み
- 個人・診療情報などの情報流出リスク(常時接続)
- 電子カルテとしての安全性
- 開発ベンダーに社歴の浅い会社が多い
- ガイドラインの拡大解釈による開発
- 高速インターネット環境が必須
- 時間・曜日の通信混雑状況で、処理が遅い時がある
- 通信障害・クラウド保守時間は利用不可
- バックアッププランは各ベンダーが独自で用意
- 月額利用料が高額(vs オンプレミス)
- 独自仕様などカスタマイズに弱い(vs オンプレミス)
2.オンプレミス型
オンプレミス型
サーバーを構内に設置して、ソフトウェア、データベースをインストールしたシステムを運用する仕組み。構成、ネットワークなど柔軟な設計、クラウドに比べ安全性が高いとされるが、構築に時間を要する点の他、初期コストが高額になる傾向にある。プレミス(premise)は「構内」の意味。「オンプレ」と略されることも多い
オンプレ型の強み
- レスポンスが速い(サーバー能力に依存。vsクラウド)
- 個人情報流出リスクが低い(構内にデータ保存。vsクラウド)
- 月額費用は比較的安価(端末台数に比例、PCの価格低下)
- 施設毎にカスタマイズも可能
- 実績のあるベンダーが多いので安心
オンプレ型の弱み
- 初期費用が端末台数分必要となり高額
- ハードの購入
- アプリの購入
- 固定、または推奨ハードによる制限事項が多い
- サーバー設定・端末台数分のセットアップ作業
- インストール・設定作業
- 設置作業、導通作業
- 障害復旧は自力困難(vsクラウド)
- 代替PCの準備、インストール作業
- バックアップからの設定復元
- 施設外の利用に大きな制限がある
- 利用の端末へのアプリインストール、設定
- 医事スタッフの負担大(vsクラウド)
- アプリのバージョンアップ
- 診療報酬改定の作業及び設定
- 点数表マスタ更新 など
3.レセコン一体型
レセコン一体型
カルテとレセコン、同じデータベースを利用します。クラウド・オンプレ両方あります。
必ず本体は1台。ログイン、設定でカルテ、レセコン機能を切替ます。
① 患者の登録作業はレセコン機能
② カルテ機能で診療行為、投薬を入力
③ レセコン機能で診察料、技術料、指導料など処理➡ 会計(診療行為の修正は②)
レセ一体型の強み
- 同じメーカーの開発
- サポートがあり安心操作方法の統一感
- 画面構成の統一感
- 担当者
- 問合せがワンストップで解決するので楽
- 問題の切り分けを考えなくても良い
- 省スペース(パソコン・キーボード、マウスが1台)
- コストパフォーマンスが高い
- 別々に購入しなくてよい
- 維持費も重複しない
レセ一体型の弱み
- 担当者に問題があれば話が進まない
- 機能・操作性
- 不満が生じても切り離せない
- 障害発生時に両方が影響
- カルテ入力、会計(入力と処方箋、会計書など印刷物)
- 購入・更新時期が同じ
- カルテの更新ではレセコンも同じ更新
4.レセコン分離型
レセコン分離型
カルテとレセコンのデータベースが異なります。クラウド・オンプレ両方あります。
電子カルテと同じハードに、レセコン機能を内包(同居)する運用もありますが、別のシステムです。
① 患者の登録作業はレセコン ➡ カルテに連携
② カルテで入力した診療行為、投薬など ➡ レセコンへ連携
③ レセコンにて診察料、技術料、指導料など処理➡ 会計(診療行為の修正は②)
レセ分離型の強み
- それぞれに優れたシステムを選択できる
- クラウドまたはオンプレ
- 先進的な機能、またはチェック、DB充実
- 更新では、購入時期を分けられる(カルテは早いサイクル)
- 他ベンダーへ乗り換えの際、リスクは半減
- カルテだけ(レセコン操作性変わらず、事務の負担減)
- レセコンだけ(カルテデータの損失無し、操作性もそのまま)
レセ分離型の弱み
- レセコン・電子カルテ両方の操作を覚えなくてはならない
- 連携の不具合など両方に連絡が必要
- 両方に症状を伝える手間と、時間を要する
- たらい回しされ、時間のかかる事もある
- 両方のコストが発生する
- 初期費用
- 維持費
- 更新費用
- 購入するタイミングを分けられる
- 設置スペース(内包・同居の場合)は2台分
- (内包・同居の場合)ハード障害では両方が利用不可
5.クラウドとの相性

システムの利便性だけを考えると、クラウドは相性抜群、これ以外の選択肢はないといえます。
しかし、一方でサポート面、クラウドサービスの浅い歴史を見た場合、絶対にそうとも言い切れません。クラウド型電子カルテをカルテ単体で売り出しているベンダーは、開発の技術はあるが医療経験の浅い会社も少なくありません。
保守ではオンラインサポートとか、コールセンターとありますが
・どうしても訪問を希望
・ネットワーク障害でつながらなくなった場合
これらは、オンラインサービスのみではどうしようも無く致命的です。
優先順位として、院外で診療行為が必要かどうか。必要であればクラウド型が一番です。
院外での診療行為が無い場合、次の2点で検討されることが多くあります。
1.インターネットを利用してどこでも、どの端末でも利用できる利便性を優先させるか
2.日々の診察で入力レスポンスが速く、インターネットに常時接続しない安全性を優先すべきか
答えは一つではありません。
診療科、連携する医療機器なども視野におき、相談できる良い相手を探すのも一つの手です。
参考:インターネットの速度について
日常生活でインターネットが遅いと感じる時があります。これはトラフィックが関係しています。
通信量が多い(トラフィックが大きい)時間帯、曜日では通信に時間がかかってしまいます。
総務省より固定通信(施設内の通信環境)の調査結果が報告されています。
デモの時間帯が13時~15時、19時以降であれば、比較的スムーズに動作するのではないでしょうか。
診察では、デモの体感にある程度割り増しでのレスポンスであると認識しておかれると良いのではないでしょうか。
出典:総務省・令和2年情報通信白書のポイント より
A 固定通信の時間帯別通信回数・通信時間
固定通信の時間帯別通信回数は、企業等の業務時間である9時から正午までと、13時から18時までの時間帯が多くなっている。
また、時間帯別通信時間も、通信回数と同様の傾向
B 曜日別の変化(ダウンロードトラフィック量)
ISP9社のブロードバンド契約者の時間帯別ダウンロードトラヒックの曜日別変化をみると、全ての曜日において21時から23時がピークの時間帯となっている。平日と比較して休日は朝から昼にかけてのトラヒックの増え方が大きくなっている
移動通信トラヒックの曜日別変化をみると、平日は朝から夕方にかけて徐々にトラヒックが増加し、昼休み帯(12時から13時まで)に一時的なピークがある。休日は朝から昼にかけて急激に増加している。平日及び休日ともに、夜間帯にトラヒックが増加し、22時頃がピークの時間帯