301・診療圏調査は定期的に確認が必要

診療圏調査
診療圏のイメージ

開業前の診療圏調査・・

診療圏とは、自分のクリニックに足を運んでくれるエリアです。
クリニックを中心として、徒歩、電車による移動が多いエリアでは距離による同心円、車移動が多いエリアでは車の到達時間を基準とする事が一般的です。一次診療圏、二次診療圏と定義し、昼間・夜間の居住人口、年齢・性別などを調べます。圏内に存在する競合をはじめ、駅・河川・学校・スーパーマーケットなどの生活動線の存在を考慮し、推計患者を求めます。国勢調査のデータを利用する事が一般的です。

開業時の診療圏調査では、事業計画を立てる際の収支予想に大きく影響する調査です。

開業後の診療圏調査・・

診療圏調査は開業時の事業計画を作成する為だけではありません。人口・年齢の分布は年々変化する事はもちろんですが、開業時に試算したエリア、年齢層とのギャップがあれば原因と対策を練らないといけません。開業時は国勢調査しかありませんが、開業から2年目、3年目ともなると電子カルテ、レセコンに膨大なデータが蓄積しています。住所、年齢、性別、診療報酬の単価などが実データとして調査できます。

電子カルテでは、データを表示できたり、出力が可能なシステムもありますが、これだけではお勧めできません。最近では前年、前月での比較がグラフで表示されたり、エリアでマッピング、病名による傾向を分析できたりします。もちろんローデータとして出力できるので、独自で分析する事も可能です。

毎月、四半期で確認する数値になるので、電子カルテには経営分析ツールは欠かせません。

目次

  1. 診療圏調査の目的
  2. 患者を増やす見方
  3. まとめ

1.診療圏調査の目的

目的:利益を出して安定した経営が持続可能か、予測する為

利益を出すために、最初にやるべき一つが診療圏調査になります。

医療サービを提供する事で地域の健康に貢献したいと考えても、来院する患者が少なくて収入が少なければ医薬品の調達をはじめ、十分な設備投資が行えないため継続が困難になります。医療サービスを求めている(不足していると思われる)場所に、医師・スタッフ・設備の体制を整え、継続するには安定した利益が必要です。

利益を得られる事。安定した医療サービスを提供し続ける為には絶対に必要な条件です。

例として、小児科開業を検討している立地の診療圏調査を行い、一次診療圏の総人口100人、昼間人口30人、12歳以下人口15人の結果だった場合

  • 総人口100人、12歳以下が15人
  • 1日あたりどれくらいの外来患者数が見込めるか

▼ 単純に結果だけを考えると、次の予測がたてられます。

  • 利益を出そうにない
  • 経営が成り立たない

▼ここで終われば、大きなミスリードです。

  • 最近、徒歩3分にマンションが建設された
  • 土地開発・分譲、団地ができた

これは「魅力的な立地」といえる要素の一つではないでしょうか。

患者が足を運んでくれる立地かどうか」ポテンシャルを予測する事こそ「診療圏調査」の目的ですが、利用される事の多い国勢調査の統計数値にはタイムラグが生じます。
そこを織り込んで追加のパラメータを設定しないと正しい調査とは言えず予測ができません。

2.患者を増やす見方

調査結果で良くみる3つの表

  1. 人口動態調査
  2. 競合医療施設の分析
  3. 推定の来院患者数 ※1

 ※1 推定患者数:、診療圏内の人口 × 患者調査による受療率 = 想定地域患者総数 ÷ 競合医院数(+1)


調査サンプル
エリアサンプル

  • 診療圏:1次診療圏を1.5km、2次診療圏を2km等に設定(車移動の多い地域、診療科により調整)
  • 受療率とは、人口10万人に対してどれだけの割合の人が外来や入院などの医療を受けたか、を表す数値です。厚生労働省が3年に1回発表しており、都道府県別、疾病別、年齢別のデータがあります。「受療率= 1日の全国推計患者数÷10月1日現在総人口 ×100,000」 

出典:厚労省「平成29年受療行動調査(確定数)の概況」より

ポイント① 来院患者数=「診療圏内の人口×診療科科ごとの受療率÷競合の医院数」

ポイント② 年齢層・男女比

ポイント③ 1次・2次診療圏の競合・病院

ポイント④ 1次・2次診療圏(同心円)のロケーション

人口が多くても、アクセスしづらければ診察に足を運ばないものです。一方で、少々距離があったとしてもバス停や駅が近いとか、商業施設の中であれば通いやすくなります。予測には人口はもちろん、交通インフラを追加して考慮が必要です。地域的に自動車社会であれば、駐車場スペースの確保、一方通行などの交通条件を更に条件として加える必要が有ります。

患者がクリニックを選ぶ基準は、診療科目はもちろんですが、通いやすさが重視されます。難しい病状であれば高名な医師・高度な治療を求め、県外でも希望する方もいますが、日常的な症状であるとか定期通院が必要な場合、通いやすさと診察スタイルが合うことが一番です。

2.1 交通インフラ

  • 徒歩
  • 自転車が多い
  • 車の保有率が高い
  • 駅・バスが発達

2.2 生活動線

  • 加点
    • 大きなスーパーマーケットなど商業施設があり、人気が高い
    • 建設予定の団地、マンションなど
    • 病院、診療科の競合しない診療所
  • 減点
    • 診療科が競合する診療所(開業予定、開業直後は数値化されていません)
    • 大きな河川、線路など分断がある(反対側に行きにくい)
    • 道路(片側3車線の道路がある、または狭くて徒歩のみ)
    • 駅(特急、快速が停車する1駅先の利用者が多い)
    • 隣地(ビルテナントの場合は同居の業種)の状況
    • その他マイナス環境(騒音、悪臭など)

2.3 その他

  • 車が入りやすい、駐車しやすい場所かどうか
  • 人目に付くか(通りから目立つか)
  • 通行量、朝昼の時間帯別
  • コインパーキングの位置、距離
  • 競合する診療所でも得意科目、患者数、院長の経歴、年齢

生活動線は変化します。定期的に確認する事が大事です。
今を把握して、予測を立てる事が重要です

3.まとめ

クリニックも患者に選ばれる時代となっています。
ビジネスでは、利益を追求するためのマーケティングが必要であり、クリニック経営の診療圏調査を利用して、患者ニーズに対応しなければなりません。

来院に車利用が多いと想定する場合、駐車スペースの確保はもちろん、近くのコインパーク、誰かの送迎なども考慮しなければなりません。また、若い世代が多く昼間人口の少ないエリアでは土日の休診、診察時間を短い(早くに閉まってしまう)計画では全くニーズには沿っておらず、経営は厳しくなると予想されます。

ニーズは、環境によって全く異なると言っても決して過言ではありません。また、それらは感覚的なものではなく、正しいデータの上で予測を立てて、経営計画に移すべき部分です。
クリニック経営は福祉・医療であると共に、ビジネス的なアプローチも必要です。

診療圏調査は主に開業前に行う調査と考えている方も多くいますがそれは違います。
10年の月日は10歳の子供が成人するなど、人口動態は変化し続けています。

開業後は、来院患者の実データ(住所など)を追加するなど条件を増やしていきます。
来院が集中するエリアが以前と異なるなど分析ができるので、将来的な予測が立てられます。

経営にはデータを基に、ニーズと環境の変化に対応する事が重要です。


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