008・電子カルテ 乗り換えのリスク5つ
本当に乗り換えをしたくても、多くの方は「我慢して」今利用している電子カルテの更新を選んでしまいます。
乗り換えは大変と良く聞きますが、リスクに気づくのが遅すぎて後悔する声が多いからです。この先何年・何十年入力していくと考えた場合、慎重に検討した先の乗り換えは十分にメリットがあります。乗り換えを検討する前に頭に入れておくべきリスクについてご紹介します。
目次
1.データ移行、引継ぎ

乗り換えを躊躇してしまう理由のNo1は「データの移行、引継ぎができない」事です。
今までの膨大な診療録データが移行できなければ、とても乗り換えという気持ちにはなりませんが、データが移行できるケース、移行しなくても大丈夫な運用はあります。過去の記録が「データとして必ず必要」それとも「参照できれば良い」 どう判断するかです
データが移行できる可能性アリ
膨大な電子カルテデータを引き継ぐ為には、新しいカルテベンダーの経験値、技術力に完全に依存します。しかもデータに関して共通の仕様が無い現在、完全に移行できるメーカーはありません。
したがってお伝えする内容は、ベンダーに力があれば「引き継げるかもしれない」という事であり、すべてに共通ではありません
- レセプト電算データ
- ベンダーの開発した「移行プログラム」※現行のシリーズ・タイプ別
可能性があるのは、上記のいずれかの方法によるものです。
1.レセプト電算データ
全レセコンが統一の規格で出力できるデータです。このデータからの移行は、ほぼ全ての電子カルテメーカーが対応しています。
注意点は、診療報酬請求(レセプト)データ という箇所です。
レセプトに必要な保険情報、病名(開始・転記)、診療点数などは記録された状態で移行できます。
しかし、レセプトデータに含まれていない項目は移行できません。
- 労災保険、自賠責保険、自費診療
- 院外処方の場合、処方の内容、用法
- 包括算定の対象項目
- カルテの主訴・所見欄の内容すべて(検査結果含む)
- その他 レセプトに記載が不要な内容・コメント等
2.ベンダーの開発した「移行プログラム」※現行のシリーズ・タイプ別
主訴、所見欄のカルテデータも取り込んでしまう究極のプログラムです。
カルテデータは共通仕様が現在無い為、各ベンダーのシステム毎、シリーズで構造が異なります。同じベンダーでもシリーズが異なれば別物になります。診療録には決まった入力方法が無い為、医療機関数の数だけパターンがあります。
ベンダーに力があるという表現は、一定以上の経験・実績を重ねている。その為には、歴史と信用、プログラムを制作する技術力が必要です。
移行後のデータ形式は2種類
- Do利用可能なデータ(新システムでの入力と同等)
- 文字列データ(参照用、コピペで張り付け可)
いずれにしてもレセプト電算と比較して各段にリッチな移行が実現できます。
通常はバックアップデータを利用しますが、暗号化されているなど、旧システム側の協力が得られないと進まない事もあります。
プログラムの確認、実績の件数、費用と移行範囲についてはベンダーに対して確認が必要です。
完全には移行できない(移行の留意点)
・家系図・親等図など
・特別な役割を持つ備考欄、フラグ
移行先がないデータは、まとめてどこかに移行する事になります。当然旧システムの「工夫」と同じ視認性、利便性は期待できません。
その他、移行できないものとして、検査結果、紹介状等作成文書、デジカメ・スキャン等取込み画像 なども挙げられます。
移行しないという選択もある
過去カルテは参照できれば良いと考える医師も少なくありません。
実際「レセプト電算データ」から数年分を移行するだけであれば、データ量も少なくデータアクセスが効率的です。
5年分を移行した場合、新システムで3年後には8年分のデータが存在する事になる為、「移行しない」選択はコストと処理時間の節約になります。。
「移行しない」選択には2つの方法があります
- 旧電子カルテを利用して、過去の参照用する
- 旧電子カルテのデータをPDFなどに加工し、ビューワで参照する
旧電子カルテを利用して、過去の参照用する
LINKケーブル等によりPC間を同じマウスで操作できたり、文字列をコピペできます(患者IDなどを叩くなどの作業は必要です)
設置場所と旧システムの維持・管理コストは必要ですが、リーズナブルかつカジュアルに過去データの活用ができます。
旧電子カルテのデータをPDFなどに加工し、ビューワで参照する
カルテデータのPDF出力作業が必要です(来院期間を指定し、出力はバックグラウンドで行うなどなければ、現実的ではありません)
PDデータの患者ID部分をインデックス化して、ID検索(または連携)するソフトも販売されています。このソフトを利用すれば、新システムで診察をしている際、ボタン一つで該当患者の過去カルテ(PDF)が開き、コピペもできるというフローになります。
データ移行できればベストかもしれませんが、「移行しない」選択も、十分に検討の余地があると思います。
2.操作の覚え直し
システムが変われば、当然操作は一から覚え直しになります。機能の呼び出しメニューも、ボタンの左右配置、言葉の定義も全て覚え直しです。
マスタ(セット登録)、テンプレート、ショートカットメニューも作り直しが必要になります。
覚え直し、作り直しは大変ですが、「乗り換えしたい」動機が「操作性・機能」であれば必要な作業になります。コツさえつかんで、後は直感的に操作できるようになるのであれば、すぐ慣れるのではないでしょうか。
乗り換えの決断により、今まで1人5秒の入力時間が、1秒に短縮できるなどであれば効果は絶大です。
3.機器連携のやり直し
システムを乗り換える場合、今まで連携していた機器が利用できるとは限りません。
今連携しているベンダーに確認を取り、乗り換え検討のシリーズに連携可能か確認が必要です。連携の一覧表など提供してもらえると、今後の参考になるかもしれません。
併せて、トラブ時のフローなども確認しておくことをおすすめします。
その他にも、連携に関して注意点をまとめています。「電子カルテ 購入後に必要なコスト6種」も確認下さい。
4.カルテの保存義務

診療録の保存期間は5年間です。これは「療養担当規則 第9条」に定められています。
したがって、完結(転記)された日を起算として5年間の保存が必要です。
更に医療事故の事項は20年である事を考慮すると、保存期間は出来るだけ長ければ長いほど良いという事が言えます。
「保険医療機関は,療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から3年間保存しなければならない。ただし患者の診療録にあってはその完結の日※2から5年間とする 」
療養担当規則 第9条より
※2 完結の日:転記「治癒」・「死亡」・「中止」が決まった日
出典:H11.1.27 医療審議会総会 より
- 旧システムは「参照できるように」廃棄しない
- ビューワ等でいつでも「参照できる」環境を整えておく
5年の保存義務に関して、解釈は電子カルテベンダーにご相談下さい。クラウド型の場合、維持するにも高額コストが発生し続けます。
5.スタッフの猛反対
乗り換えの際、いかなる理由であってもスタッフから反対されればうまく事が運びません。
協力を得る、理解してもらう為には、まず次の3点を丁寧に伝えるべきです。
- 乗り換える目的・理由を明確にする
- 患者の為
- スタッフの為でもあること
- 操作を覚え直す 不安に対するフォロー
- 研修期間、研修内容は十分に考慮している事
- 過去カルテ どうなるか分からない不安に対するフォロー
- 移行できないデータについて扱い
- 今までと同じ、または追加の機能、利用できなくなる機能
実務に直結する2(操作への不安)、3(データが移行されない不安)については特に時間をかけるべきです。
曖昧な説明で終わると、後から不満につながります。
スタッフ全員で取り組むことが、患者サービスに繋がると信じて取り組む事が大事です。
後は、確認作業に漏れがないかチェックをして、決断をするだけです。