010・クリニック シュライバーの育て方
目次
シュライバーを導入する真の目的は、事務的作業の代行ではありません。
高いスキルを要求されるシュライバーですが、育て方のコツ2つを紹介します。
1.シュライバーとは

ドイツ語で「書く人」「書記官」を意味する言葉です。
医師の仕事には、カルテの記録をはじめ、診断書、主治医意見書などの文書作成、検査予約など様々な事務的作業が含まれています。これらの事務作業を、医師の指示の下で代行する仕事がシュライバーと呼ばれ、クラーク、医療事務作業補助者とも呼ばれたりもします。
無床診療所では「医師事務作業補助体制加算(施設基準あり)」は算定できませんが、シュライバーの有用性は認めらており、導入の診療所は増えつつあります。
事務的作業の具体例
① 診断書、診療録及び処方せん(医師が最終的に確認し署名することを条件)
② 主治意見書(医師が最終的に確認し署名することを条件)
③ 診察や検査の予約(医師の正確な判断・指示に基づくもの)事務職員の条件
・雇用契約において同趣旨の規定を設けるなど個人情報の取扱については十分留意する
・関係する業務について一定の知識を有した者が行うことが望ましいシュライバー導入の目的
事務職員の積極的な活用を図り、医師や看護師等の医療関係職を本来の業務に集中
医師や看護師等の医療関係職の負担の軽減
出典:医師及び医療関係職と事務職員等との間等での役割分担の推進について(医政発第1228001号)」より
導入メリット
- クリニック側
- 医師は診療に専念できる
- 患者とのコミュニケーションに時間をかけられる
- 患者・受診者側
- 時間をかけて、しっかり診察してもらえる安心感
- 経過の理解、治療方針について理解度が増す
補足ですが 十分なインフォームドコンセントの為には、医師自らの電子カルテ操作が不可欠です。
- 治療効果を示すうえでの投薬・処方変更と検査値・グラフの関係
- 医薬品添付文書の活用、成長曲線、画像の時系列比較など
信頼性が増すうえに、コミュニケーションが増え患者の満足度向上につながります。
メリットがもたらす「本当の効果」
- 患者の満足度の向上
- 医師の働き方改革・過酷労働の解消
- 診療所の評判向上と集客・収入アップへの期待
デメリットとして
医師・看護師以外のスタッフが診察室にいる中での診療や検査に抵抗を感じる方もいます。その場合は、
・受付の際に申し出るように院内に掲示
・申し出があればカルテに申し送り(シュライバーは離席)
・診察の最後に抵抗感の確認(次回に役立てる)
以上により、デメリットはクリアできます
2.シュライバーの育て方

民間資格(医師事務作業補助者関連)
国家試験はありませんが、民間はいくつかあるようです。
- 「医師事務作業補助技能認定試験」
一般財団法人 日本医療教育財団と公益社団法人全日本病院協会 共催 - 「医師事務作業補助者検定試験」
技能認定振興協会(JSMA)主催 - 「医師事務作業補助者実務能力認定試験」
全国医療福祉教育協会 主催
資格を取得、または学習するだけでも医師事務作業補助者に求められる知識と技能が身に着けられます。
資格取得を目標に置き、資格手当などの評価制度を設ける等をおすすめします。
明確な目標が立てられることと、評価が加わる事でスタッフのモチベーションにつながります。
3人をローテーション
紙カルテから電子カルテに切り替える時、「受付スタッフは不要になる」みたいな話を良く聞きました。これは全くの誤解です。
また、シュライバーは3名のローテーションがおすすめです。シュライバーは事務作業とは言え、医師業務の代行になります。緊張感により相当の疲労とストレスが蓄積するので、1日または午前午後のシフトを計画が一般的です。体調がすぐれないときは交代できたり、シュライバー育成の期間中も複数人同時で行う方が確実に育ちます。一般社会でも新入社員1人だとすぐ退職したりしますが、同じ目的を持つ数名の同期がいる事で支え合い、良い結果に繋がります。
受付スタッフからの起用が、院内業務の理解は十分で理想的です。しかし職務内容から辞退(拒否)の可能性や、体制がスタッフ間に不安を与える事もありますので、必要性や導入効果について看護師を含めたスタッフ全員から十分な理解を得る事が必要です。求人による新規採用を検討される場合、医療事務スタッフと違い経験者を見つけるのは困難かもしれませんが、医療事務経験やパソコンスキル、シュライバーの適性を備えた人物の採用が望めるメリットもあります。
必要なスキル・適性
事務作業の代行とは言え、医師の右腕となる職種です。
かなり高いスキルが要求されます。
- 診察意図・空気を読み取る力
- 医師・看護師とのコミュニケーション力
- 主訴・所見など文章化する力
- 医療知識(診療行為・医薬品の知識)
- 判断力
- 電子カルテの操作能力
これでは「該当者なし」となりますが、受付スタッフの配置転換をイメージしてみてください。
- - 診察意図・空気を読み取る力
- ◎ 医師・看護師とのコミュニケーション力(日々の照会)
- - 主訴・所見など文章化する力
- ◎ 医療知識(診療行為・医薬品の知識)
- ◎ 判断力
- 〇 電子カルテの操作能力
普段から電子カルテを操作しているので操作能力は大丈夫、医師との疑義照会も対応しています。カルテの内容から診療報酬の指導料、加算など置き換えるので、読み取る知識と判断力も備えています。
不足しているのは患者の主訴、医師の話す所見を文章化する事です。操作面でも紹介状をはじめ、書類作成も経験が無いので育成・トレーニングが必要です。
育てる為の2つのコツ
- 医師とシュライバーとの信頼関係
- 時間をかけて、ゆっくり着実に
シュライバーを育てる方法はこの2つ以外にありません。
医師とシュライバーの双方に信頼関係は絶対に必要です。
医師がスタッフに歩み寄る姿勢などが信頼関係構築への第一歩になります。時間をかけて着実に築きましょう。
育成段階のスタッフは、焦燥や自信喪失を覚えることが少なくありません。その時期に急がせたり、完璧を求めるあまり失敗をきつく指摘するなどは絶対に止めてください。
信頼関係ができていても挫折をしてしまい、患者、他のスタッフにも影響が及びます。
シュライバーにいきなり事務作業全てをお願いするもやめてください。
代行してほしい業務を目標に決め、無理のない計画を立てて、ゆっくり着実に育ててください。2~3人同時に育成に取り掛かるのがおすすめです。
その間に、医師も診療行為を言葉に変換するトレーニングをお願いします。
育成フロー
- STEP1.診療の流れを十分に理解する
- 診察の進め方・言葉をシュライバーの目線で理解
- 患者様に対する質問と、その返答
- 疾病や検査、よく処方される薬について
- STEP2.医師の入力内容と、理解した内容を比較
- STEP3.スキルに合わせて実際に代行入力して慣れる
- 画面、マウス、キーボードは2つ用意(画面の複製)
- 医師は入力内容を確認(OJT)、承認
- STEP4.全てのカルテ入力(医師の承認は必要)
医師の診療スタイルを理解するのは時間がかかります。
イライラした雰囲気を出すのではなく、ある程度の育成時間は覚悟しましょう。
ゆっくり着実に育ったシュライバーは、医師の信頼関係のもとに期待される役割を果たしてくれます。
真の目的は
「患者の満足度向上」と「医師の負担軽減」による経営の安定と向上です。